• 2013.10.01
  • 声明・決議・意見書

「特定秘密の保護に関する法律案」に関する会長声明

 政府は、平成25年9月3日、「特定秘密の保護に関する法律案の概要」を取りまとめ、同日からパブリックコメントを開始したが、その締切は同月17日と十分な時間を与えられなかった。しかも、政府は、わずかなパブリックコメント募集期間に約9万件の意見が寄せられ、そのうち反対意見は77パーセントにも及ぶものであったにもかかわらず、法律案としてとりまとめてしまった。
 本法案には、少なくとも次のような重大な問題点があり、国民の基本的人権、特に国民の知る権利を不当に侵害するおそれが強いというべきである。

1 本法案では、行政機関の長が「特定秘密」の指定をするものとしている。しかしながら、本法案には、行政機関の長の恣意的運用を排除するための制度的保障は用意されていない。この点、本法案においては、本法の適用にあたって拡張解釈により国民の基本的人権を不当に侵害することがあってはならない旨を定めることとされているが、訓示規定にすぎず、その違反に対する罰則等が定められているわけではない。また、「特定秘密」の指定の際には上限を5年とする有効期間を定めることとされ、その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがなくなった場合には速やかに指定を解除すべきものとされているが、有効期間は更新可能であり、その更新や指定解除の要否の判断は当該行政機関の長の専権に属するから、このような制度としても行政機関の長の恣意的運用を排除できるとはいえず、結果的に国民の基本的人権が不当に侵害されるおそれが強いというべきである。

2 「特定秘密」として指定できる情報の範囲は、①防衛、②外交、③外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止、④テロ活動防止の各事項であって、その漏えいが我が国の「安全保障」に著しく支障を与えるおそれがあるものであるとされているところ、その要件は明確とは言い難く、「特定秘密」に指定できる情報の範囲が想定外に広がる危険がある。
 すなわち、防衛に関する事項は、自衛隊法別表第4と同様に限定的ということはできず、外交に関する事項は、「安全保障」の捉え方次第で、その範囲が無限定に広がるおそれがある。外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止に関する事項は、「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全への脅威」「その他の重要な情報」など抽象的で曖昧な文言になっており、範囲が極めて不明確であるし、テロ活動防止に関する事項も、「テロ活動」の捉え方次第で、その防止活動の範囲を拡大することが可能である。
 これらに、「我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要」との限定要件を付したとしても、この要件についても行政機関の長が自ら判断するものであるから、厳格に運用される保障はない。

3 本法案は、「特定秘密」の漏えい行為を処罰対象としているが、故意犯だけでなく過失犯も処罰するうえ、「特定秘密の保有者の管理を害する行為」という不明確な犯罪構成要件をもってその取得行為を処罰するものであり、かつ、その最高刑も10年の懲役刑である。このような処罰規定の存在が、報道機関の取材活動に著しい委縮効果を与えることは明らかであり、国民の知る権利に資する取材の自由・報道の自由を侵害する危険性が高いというべきである。

 本法案については、基本的人権擁護の立場から、他にも問題点があるところであるが、上述した各問題点からは、本法案が国民の知る権利を不当に制限するものであることは明らかであるから、当会は、本法案が立法化されることに強く反対し、政府が本法案を国会に提出しないことを強く求めるものである。

以上
     

2013年(平成25年)10月1日
            第一東京弁護士会 
会長  横  溝  髙  至

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