• 2024.10.10
  • 声明・決議・意見書

選択的夫婦別姓制度の早期の導入を求める会長声明

 当会は、国に対して、婚姻における夫婦同姓制度を定める民法第750条を早急に改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを求める。
1 男女共同参画社会の実現のために
 氏名は、個人を識別する重要な要素であるばかりでなく、あらゆる人と人との関わりにおいて個人のアイデンティティ確立に欠くべからざる要素でもあるから、婚姻によって姓の変更を強制することは、個人の人格・尊厳の侵害やアイデンティティの喪失を伴う。
 また、日常生活であると職業生活であるとを問わず、社会におけるあらゆる活動において継続的に自己の氏名を表示することにより、当該活動がその個人のものとして認識され、個人の人格や信用・評価を基礎づけていく。とりわけ職業生活においては、キャリアの連続性という点から婚姻前の姓の維持にかかる利益が益々重要なものとなっている。
 社会的には旧姓を通称として使用することが広く認められるようになっているが、通称姓は法律上の姓ではないことから、論文等での研究成果の発表、公的職務への就任、不動産その他の各種登記、金融機関での手続、契約書作成など、通称姓使用により対処しきれない不利益が数多く存在し、また、本人確認の場面で法律上の氏名と通称氏名の人物が同一人物であることの証明を別途求められるなど、ダブルネームを使用しているが故に生じる弊害も様々に拡大している。我々弁護士についても、日本弁護士連合会に旧姓を「職務上の氏名」として届けることにより、旧姓で弁護士業務を行うことが認められているものの、実際の業務においては同様の不利益や弊害に直面することが多く、業務上大きな障害となっている。このように、旧姓の通称使用には限界があり、加えて、社会のデジタル化、戸籍上の氏名による本人確認の強化が進む中で、弊害がより拡大することが見込まれるから、抜本的な解決策にはならない。
さらに、夫婦同姓制度のもとでは、姓の変更により、望まなくとも婚姻または離婚の事実が広く明らかになってしまうプライバシー上の問題が存在するが、通称姓使用に関しても、通称姓使用の届出手続や通称姓使用の事実を明らかにせざるをえない場面で、同様に婚姻または離婚の有無を他者に知られるというプライバシー上の問題が生じる。これらの不利益や弊害は改姓を行う者にだけ重くのしかかり、法律婚をする男女のいずれかに必ず発生する。
 現在、我が国では、男女共同参画社会の実現を目指して官民ともに活動を継続しており、現実に男女ともに婚姻の前後を通じて自ら選択するキャリアの継続を重視し、さらに海外でも活動の場も広げようとしている。しかし、ジェンダーギャップ指数は146か国中118位と極めて低く、法律婚をする男女のうち約95%が夫の姓を選択している現状に照らせば、夫婦同姓を強制する制度が女性の社会での活躍の阻害要因となっているといえる。
 男女共同参画社会の実現のために、選択的夫婦別姓制度が強く望まれている。
2  夫婦同姓制度の違憲性
 氏名については、最高裁判例において「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」(最高裁第三小法廷1988年2月16日判決、民集42巻2号27頁)と判示されており、婚姻により意に反する改姓を強いられる者にとっては、婚姻の前後で個人の同一性が分断されることになるため、夫婦が同姓にならなければ婚姻できないとすることは、個人の尊重と、幸福追求の権利の尊重を定めた憲法第13条に違反する。
 また、憲法第24条第1項は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」することを定め、同条第2項は、婚姻に関して「法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」としている。しかし、婚姻によって夫婦となる男女のいずれかが改姓を強いられることは、婚姻の合意形成に不必要な困難を生じさせるものであり、民法第750条の夫婦同姓制度は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度となりえておらず、憲法24条に違反している。
 さらに、夫婦同姓制度のもとでは、夫婦の一方が改姓を行わない限りは婚姻届が受理されないため、個人の生き方として改姓を望まないものは、婚姻にあたって法律婚を選択することができず、事実婚を選択せざるを得ない。その結果、法律婚に与えられる様々な法的効果を享受しえず、同姓婚を選択し法律上の婚姻を行った夫婦との間で、合理的な根拠なく「信条」を理由とする差別的な取扱いがなされることとなる。そこで、民法第750条の夫婦同姓制度は、法の下の平等を定めた憲法14条にも違反している。
 夫婦同姓制度を定める民法第750条の違憲性が争われた最高裁大法廷2015年12月16日判決(民集69巻8号2586頁、以下「2015年判決」という。)及び最高裁大法廷2021年6月23日決定(民集266号1頁、以下「2021年決定」という。)は、同条を合憲としたが、それぞれに複数の反対意見や意見等が付され、同条の違憲性について説得的に指摘されている。さらに、最高裁第三小法廷2022年3月22日決定(判例時報2575号6頁)においても、同様に民法第750条は憲法第24条に違反するとの意見が付されている。
3 国民の意識・社会の変化等
 民法第750条が合憲であるとの判断をした2015年判決及び2021年決定においても、法制度の合理性に関わる国民の意識の変化や社会の変化等の状況は、本来国会において不断に目を配り、対応すべき事柄であると指摘するとともに、選択的夫婦別姓制度の導入に関する最近の議論の高まりについても、国会において受け止めるべきこと等をあえて指摘している(2021年決定の補足意見等)。
 官民の各種世論調査においては、近時は選択的夫婦別姓制度の導入に賛同する意見が高い割合を占め、反対の意見の割合を大きく上回るに至っている。
 また、本年に入り、日本経済団体連合会(経団連)は、女性活躍の壁を乗り越えるために必要であるとして、選択的夫婦別姓制度を早期に実現することを求める提言を行い、経済同友会も同様の要望を行っている。
このような状況や、法制審議会が選択的夫婦別姓導入の法律案要綱を答申した1996年から28年の長期間が経過していることに鑑みれば、選択的夫婦別姓制度の導入に向けて、既に機は熟しているというべきである。

 当会は、2010年及び2016年にも、民法第750条を早期に改正し選択的夫婦別姓を導入するよう求める会長声明を発表したところであるが、改めて、国に対して、早急に民法第750条の改正を行い、選択的夫婦別姓制度を導入するよう求める。当会も、人権擁護を使命とする弁護士会として、早期の制度導入に向けて全力を尽くす所存である。

2024年(令和6年)10月10日
第一東京弁護士会  
会長 市川 正司

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