• 2024.05.29
  • 声明・決議・意見書

再審に関する法改正を求める決議

 当会は、国に対し、刑事訴訟法第四編「再審」(以下、「再審法」という。)について
1 再審請求審において、申立て後早期に再審請求手続期日を開くことを義務付ける規定、証拠開示制度の規定などの基本的手続規定を整備すること
2 再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
を含む改正を速やかに行うよう求める。
 以上のとおり決議する。
                              2024年(令和6年)5月29日
                                      第一東京弁護士会
 
決議理由
1 再審法改正の高度の必要性
 1980年代のいわゆる死刑4再審無罪判決後、2000年代に入って以後も、布川事件、足利事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件の無期懲役4事案のほか松橋事件、湖東事件の長期服役事案における再審無罪判決が断続的に続いている。さらに、死刑事案である袴田事件においては、昨年2023年3月に再審開始決定が確定し、静岡地方裁判所の再審公判も、まさに当月(2024年5月)に結審し、夏にも判決が言い渡されることが見込まれている。
以上のとおり、我が国の刑事裁判において、今なお救済が必要なえん罪事件が存在していることは明らかである。にもかかわらず、その救済には極めて長期間を要してしまっているのが現状であり、例えば袴田事件でも、死刑が確定した翌年である1981年に再審請求が申し立てられた後、昨年2023年に再審開始決定が確定するまで実に42年を要している。
 人間の営みである以上、裁判に誤りが発生することは不可避である。そうであれば、それを直視し、誤りがあるのであればそれを速やかに是正し救済する制度を整えることは、刑事司法として当然必要なことである。
2 基本的手続規定を整備する必要性  
 ところで、刑事訴訟法第四編は、再審に関してわずか19条の条文しかおいておらず、特に審理手続を定めたものとしては、裁判所が事実取調べをすることができると定めた第445条のみである。裁判手続である以上、基本的な手続規定を設けることは最低限の条件であり、規定を置かない合理的理由は見出しがたく、基本的手続規定を整備することは喫緊の課題である。
 特に、えん罪であったことが確定した上記各事件の再審請求審においても、担当する裁判所の姿勢により、裁判所、検察官及び弁護人の三者の打合せすら開かれない結果、救済に長期間かかってしまったことが認められる。したがって、申立て後早期に再審請求手続期日を開くことを義務付ける規定を設けるべきである。
 また、再審請求審における証拠開示については、いまだに明文の規定が存在しておらず、裁判所の広範な裁量に委ねられているのが現状である。再審請求審において、再審請求人に対する手続保障を図り、その活動を実効あらしめ、えん罪被害者を迅速に救済するためには、再審請求審における証拠開示の制度化も必要である。
 このほか、再審請求人の陳述の機会の付与、再審請求人が求めた証拠調べの実施などの再審請求人に対して適正手続を保障する規定を含めた基本的手続規定を整備すべきである。
3 検察官の不服申立ての弊害
 さらに、前記各事件をみると、再審開始決定に対する検察官の不服申立て(第450条による即時抗告)が、早期救済を妨げている実情が認められる。袴田事件においても、2014年に地裁で再審開始決定が出された後、検察官が即時抗告をしたため、再審開始が確定するまで約9年が経過した。確定判決に合理的疑いが生じたとする裁判所の判断が出された以上、検察官がなお有罪を求めるのであれば、再審公判において主張立証すれば足り、現に袴田事件においても、検察官は再審公判で詳細な有罪立証を行っているのが現状である。刑事訴訟法の中には、例えば付審判請求のように、終局判断でない中間的な判断に対して不服申立て規定を置かない制度もあるのであり、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁じたとしても、刑事訴訟法全体の趣旨に反するものではない。
 以上より、えん罪被害者を早期に救済するためには、再審開始決定に対する検察官による不服申立てを禁止するべきである。
4 再審法改正に向けた機運の高まり
 再審法改正に向けた国民各層の声は、確実に高まっている。本年3月には、超党派による国会議員連盟が発足し、また多数の地方議会や地方公共団体の首長から再審法改正を求める意見書が採択され、これらはさらに数を増しており、再審法改正の機運は高まっている。
 上記のとおり再審法改正は急務であるところ、以上のような気運の高まりを受けて、改正作業の難易等を含め勘案し、決議の趣旨のとおりの改正を求めるものである。

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